121113-Tech-2-3.jpgアウディAGが開催したテクノロジーワークショップに、モータージャーナリストの島下泰久氏が参加。アウディが目指す明日のモビリティをレポートする。 アウディAGは年に数回、将来に向けて開発中の技術をわれわれプレスに惜しみなく見せてくれるワークショップを行なっている。必ずしも毎回参加できているわけではないし、テーマはそのときどきで異なるのだが、その中でも今回の内容については、もう度肝を抜かれたという言葉しか見当たらない。

「こんなことまでやっているのか」あるいは「ここまで見せてしまっていいのか」と驚きの連続だったその内容に圧倒され、ある言葉がふと脳裏に浮かんだ。それは「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」というアウディのスローガン。久々に、それを大いに実感したというわけである。

当日はいくつかのテーマが用意されていたのだが、ここではとくに次世代パワートレイン、そして燃料ストラテジーにフォーカスしてお伝えしたいと思う。まずはパワートレインについての現状報告からだ。

アウディはTFSI、そしてTDIに象徴されるパワートレインの革新により、エンジン効率を著しく向上させてきた。ガソリンのTFSIに関して一例を挙げれば、2000年モデルのA4 1.8Tが最高出力150psでCO2排出量は197g/kmだったのに対して、最新のA4 1.8TFSIは同170ps、134g/kmを達成している。出力アップの一方でCO2排出量を31%も低減しているのだ。

121113-Tech-1-2.jpgアウディによれば、そのうちの75%分がエンジン本体の進化によるものだという。カギはダウンサイジング+過給。それによってダウンスピーディング、つまり使用回転数を下げたことにある。
121113-Tech-1-1.jpgそして、現在ではその方向性は次のフェイズへと進んでいる。それがライトサイジングコンセプト。要約すれば状況に応じた適正な排気量ということで、その一環としてすでに登場しているのがS6/S7スポーツバック/S8に搭載された4L V8ツインターボ、そして新型A3の1.4TFSIに採用されたCOD(シリンダー・オン・デマンド)、つまり気筒休止メカニズムである。
他に現在進んでいるのが、特にボトムエンドでのトルク増強のための2ステージ過給、より高いブースト圧に対応するチタン合金製タービンなどの導入だ。さらに今後は、低圧EGR、ミラー(アトキンソン)サイクルの導入、更にはHCCI(予混合圧縮自着火)までも見据えて開発が行なわれているという。

アウディとしては、これらの進化によって2020年までにエンジンだけでさらに15%の燃費/CO2排出量低減を実現できるとする。そして車両として見たときには、A4クラスでCO2排出量100g/kmを下回るという目標を設定しているとのことであった。

一方、TDIに関しても、高効率化の進捗は著しい。1997年の2.5L V6TDIが最高出力150psだったのに対して、最新の3L TDIは313psと、実に倍以上。しかしCO2排出量は169g/kmと3割も低減されており、さらにエミッションは95%も改善されているのだ。

121113-Tech-1-3.jpgそして、パワートレインに関する最新のニュースといえば、いよいよ始まったハイブリッドの導入である。日本では先日A6ハイブリッドが発表されたが、その後にはQ5ハイブリッドも控えている。
121113-Tech-1-4.jpgまた本国では同じ2L TFSIユニットと電気モーターを組み合わせたシステムを搭載するA8ハイブリッドも設定されており、こちらも日本上陸を果たすという。内燃機関をさらに高効率に使うべく、ハイブリッド化は今後もますます進んでいくことになる。
また、それに類する技術として、iHEV(インテリジェント・ハイブリッド・エレクトリック・ドライブ)も開発中だ。それについては、後ほど再度触れることにする。

続いて実際に、3つのパワートレインをテストすることができた。まず最初は"3.0TDI with electric turbo"つまり電動ターボ付きのTDIユニットである。
 
121113-Tech-2-8.jpgこれは排ガスが十分ではない低負荷域において、電動ターボチャージャーを使って過給を速やかに立ち上げようというもの。十分な排ガスが得られる高負荷域では、通常の排気ターボが機能する。
乗ると違いあるいは効果は明白だ。ベースのTDIでも十分に低速域でのトルクは力強く、レスポンスも鋭いのに、こちらはアイドリングよりほんのわずか上の回転域での、過給が立ち上がるまでのほんの一瞬のラグまで消え去り、その立ち上がりがさらに一拍ほども素早いという印象なのだ。実際、2台並べてのゼロ発進では3秒で1車身の差がつくというから、その効果は想像以上である。

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ちなみにターボチャージャーを駆動する電力は回生エネルギーをキャパシタに蓄えておいて使う。その意味ではハイブリッド的な面もあり、つまり効率性も向上していることになる。

続いては"Dual-Mode Hybrid"。パリサロンでワールドプレミアされたクロスラインクーペが搭載していた新しい2モーター・プラグイン・ハイブリッドシステムを積み込んだA1 e-tronテストカーに乗り込んだ。

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2モーターとはいっても、システム構成はトヨタ式とはまったく異なる。最高出力130ps、最大トルク200Nmを発生する1.5L 3気筒エンジンは、同68ps/210Nmの電気モーター1と連結されている。電気駆動を担うのは同116ps/250Nmの電気モーター2。これには単速トランスミッションが連なり、エンジン&電気モーター1とは必要な時にドグクラッチにて連結される。

発進には電気モーターのみが使われる。EVモードでも充分なトルクがあるため、車重が1500kgに達していたテスト車でもダッシュ力は上々だった。そして、55km/h近辺でエンジン&電気モーター1ユニットとのクラッチが繋がり、ハイブリッドモードでの走行へ。この時の出力は177psとさらに強力で、また3気筒特有の振動もそれほど感じさせることはなく、気持ち良く走行できた。ちなみに0-100km/h加速は9秒未満とのことであった。

そして130km/h以上では、走行はほぼエンジンだけで行なわれることになり、電気モーターはアシスト程度の働きとなる。トランスミッションが単速なのは、低速域では強力な電気モーターが駆動に使われるため、減速比を変える必要がないからだ。そのため当然、ハイブリッドモードでも加速は非常にダイレクト感が高い。1速だけのギアは高速域に合わせたレシオのため、万一バッテリーが空になったらエンジンだけでの発進はキツそうだが、当然そうならないように電力マネージメントが行なわれるという。

搭載されているバッテリーの容量は17.4kWhと、かなり大きい。これによりEV走行距離は最高90kmに達する。燃費はプラグインハイブリッドということでわかりにくいが、1L/100kmつまりリッターあたり100km。CO2排出量は23g/kmという数字を実現している。とくに低速域におけるほぼEVそのものといえる走行感覚に、より高いダイレクト感というトヨタ式とは違った走りの魅力を両立させ、しかもこれだけの環境性能を両立しているのだ。市販に移されたならば、これは相当魅力的ではないだろうか。

121113-Tech-2-5.jpg先に挙げた"iHEV"は、A7スポーツバックをベースとするテストカーで試すことができた。iHEVとは、電気モーターによる駆動メカニズムはもたないものの、アクセルオフ時には単にクラッチを切り離すコースティングではなく、エンジン停止まで行なうシステムである。
もっとも走行感覚には良い意味で特筆すべき点はない。電動のステアリングやスロットル等々にはそもそも慣れているし、走行中のエンジン停止もハイブリッド車では普通のことだ。

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面白いのは、これにナビシステムとの連動で高効率なドライブを可能とするPEA(予測型効率アシスタンス)の組み合わせである。これは例えばナビ上のルートに、しばらく上って、そのあと下る道を見つけると、上りの途中でアクセルオフにするよう指示を出す。それに従うと上りの途中でコースティングモードになり、そしてそのまま道が下りに転じれば、ほぼ速度を殺すことなく、無駄なエネルギー消費を抑えることにつながる。こんな具合に高効率運転を可能にすることで、実験では12%の効率改善を実現しているというのである。

後編に続く

(Text by Yasuhisa Shimashita / Photos by Audi AG)

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