120606-S-1.jpg新型アウディS6、S6アバント、S7スポーツバックを、モータージャーナリストの大谷達也氏がドイツで試乗。先進のエンジンテクノロジーはSモデルの走りをどう変えたのか? アウディの「Sモデル」にS6、S6アバント、S7スポーツバックが新たに加わった。

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先代アウディA6の"C6系"にラインナップされたS6は5.2L V10エンジンを搭載し、パワフルな走りとやや荒々しい男性的なイメージを売り物としてきた。

今回、"C7系"S6に搭載されたエンジンは、最新のダウンサイジングコンセプトを採り入れた4.0L V8。ただし、排気量が1.2Lも縮小されたにもかかわらず、直噴ツインスクロール・ツインターボの助けを借りて最高出力はほぼ同等(新型:420ps/旧型:435ps)、そして最大トルクではわずかに先代を上回る力強さ(新型:550Nm/旧型:540Nm)を手に入れている。もちろん、燃焼効率は大幅に改善されており、燃費は旧型を25%ほども上回るという。

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このエンジンの特徴はそればかりではない。排気系をVバンクの内側、そして吸気系をVバンクの外側と、通常と逆のレイアウトを採用しているのだ。こうすることで、吸気系の経路を最短化し、エンジンレスポンスの向上を図っているのだ。

もうひとつの特色が気筒休止機構(シリンダー・オン・デマンド・システム)を採用したこと。エンジンの発生するトルクが160〜250Nm、エンジン回転数が960〜3500rpm、水温30℃以上、そして3速以上のギアが選択されていると、エンジンマネージメントシステムは8気筒モードから4気筒モードへの変更を指示。すると、2、3、5、8の各シリンダーが停止し、実質的に4気筒エンジンとなって動作を続けるのだ。

4つのシリンダーの停止は、以下のように行なわれる。停止するシリンダーの吸排気系には、バルブを駆動するカムシャフトのプロファイルを電磁式アクチュエーターにより軸方向に移動させる機構が取り付けられている。この機構によりプロファイルが移動すると、バルブは完全に閉じた状態で固定される。あわせて燃料噴射と点火も停止し、シリンダーは休止状態となる。

細かいことをいえば、バルブが閉じて燃料噴射と点火が止まっても、クランクシャフトとピストンがつながっている限り、ピストンは上下動を繰り返す。したがって、エンジンとしての回転バランスは8気筒モードでも4気筒モードでも大きく変わらない。ただし、クランクシャフト1回転あたりの爆発回数は半減するので、エンジンの振動モードは微妙に変化する。これに対応するために登場したのがアクティブエンジンマウントとアクティブノイズコントロールだが、こられについては後述することにする。

いっぽう、ピストンは上下しても吸排気バルブが閉じているのでポンピングロスは発生しない。けれども、排気バルブも閉じられていると、シリンダー内に閉じ込められた空気を圧縮するのに無駄なエネルギーが費やされるように思える。アウディのこの気筒休止機構では、ピストンがどの位置にあるときに吸排気バルブの動作が止まるかについてまだ公表していないが、かりに下死点ですべてのバルブ動作が停止したとしても、シリンダー内の空気はスプリングのような働きをすることになり、圧縮行程で費やしたエネルギーは膨張行程で取り戻すことができる。つまり、フリクションロスさえ無視できれば、ピストンが上下することによるエネルギーの浪費は限りなくゼロに等しいのである。

なお、シリンダーの休止は1気筒ごとに順序よく実施され、8気筒モードから4気筒モードへの移行はわずか1/100秒から4/100秒で完了するという。



とはいえ、4気筒になれば振動モードが微妙に変化する。そこで、これに対応するために前述したふたつの新機軸が搭載されることになった。

そのひとつ、アクティブエンジンマウントは、エンジンマウント内にオーディオ用のボイスコイルに似た電磁振動コイルアクチュエーターを設けたもの。最大ストローク1mm、そして25〜250Hzで振動するこのアクチュエーターは、エンジンのバイブレーションをキャンセルする振動を発生。エンジンならびにアクチュエーターが発するふたつの振動は、エンジンマウント内の油圧フルード内で打ち消され、結果的にバイブレーションはボディ側に伝えられないことになる。なお、このアクティブエンジンマウントは、クランクシャフトからエンジン回転数を検出するとともに、エンジンマウント上のGセンサーによって振動の振幅を検出。これをもとに、バイブレーションをキャンセルするのに必要なデータを導き出すという。

もうひとつのアクティブノイズコントロールは、天井に仕込まれた4つのマイクによりキャビン内のエンジンノイズを検出。これを打ち消す"音"をオーディオ用スピーカーから発生することにより、不快なノイズを打ち消すという。

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こうした努力が実り、運転中も8気筒モードから4気筒モードに切り替わっても、パッセンジャーはまずそのことに気づかないはず。実は、最初は筆者もまったくこれに気づかなかった。やがて、メーターパネル内のマルチファンクションディスプレイに、4気筒モードに入ったことを知らせる機能があることを知り、これを見ながら運転して、ようやくその変化が検知できるようになった次第。ただし、いずれにしてもその違いはごくわずか。敢えていえば、4気筒モードになると周波数の高い微振動がステアリングに伝わるようになるが、それは「ひょっとすると気のせいかも?」と思える程度でしかない。

いっぽう、前述のインジケーターを見ていると、意外と頻繁に4気筒モードに入ることがわかる。郊外の空いた一般道を走行中にコースティングに入れば、ほぼ確実に4気筒モードとなる。感覚的には、走行中の5割か6割かは4気筒モードに入っているように思われた。

このように、ノイズやバイブレーションの低減を図った新型S6ならびにS7スポーツバックは、0-100km/h加速が楽々と5秒を切るスポーティモデルであることが信じられないほど、静かで、バイブレーションが小さく、そして快適な乗り心地に仕上がっていた。それは、V10エンジンのサウンドと振動をいつも間近に感じられた先代S6とはまったくの別物で、ある意味、A8に近いほど洗練された世界といえる。

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いまのところ日本仕様のA6ならびにA7スポーツバックには用意されないエアサスペンションが標準となる足まわりも、腹に響くような衝撃を伝えることは決してなく、路面からの突き上げをしなやかに受け流すSシリーズ伝統の"ほどよいスポーティ感"が受け継がれていた。

また、ハンドリングはスタビリティを強く感じさせるもので、基本的にはリラックスしてステアリングを握っていられる。ただし、ペースを上げていって、「あ、そろそろアンダーステアが出てくるかな......」と思い始めた頃、トルクベクタリングがほどよく作動し、結果的に狙いどおりのラインをトレースできるという印象を得た。そこには「これで物足りないのならRSシリーズをどうぞ!」との割り切りも見え隠れするが、日常的な快適性と第一級のパフォーマンスを高次元で両立させることにこそSシリーズの本質があるわけで、その意味からいえば、この設定には不満を覚えないどころか、大満足の仕上がるだといえる。

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新型S6/S6アバント、S7スポーツバックの日本導入は今秋始め。価格は旧型と同等の1200万円台か、それを多少上回る程度と予想される。

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(Text by Tatsuya Otani)

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